tabula rasa

いわば、スクラップブック兼メモのようなもの。
.

25.08.05

踊る総選挙(in ドイツ)[気になるサイト]

…ってタイトルに書くとまた誤解されそうだけれども。

巷の話題は9月11日に控えた総選挙一色といった感じ。
仕事帰りに見かけるいつもの夕刊売りのスタンドを飾るのは、やはり夕刊ゲン○イとか○ジとかの
いつもの"タイガース色"の見出しなのだが、それがもう「刺客」とか「当落予想」とか、そんなんばっか。
確かに惰性で「任期が切れたから選挙」っていうやつよりも、政治家にも必死感があっていいし、
単純にオモシロそう。

…ところでこの時期、総選挙を迎えるのは日本だけではないのです。ドイツもなんです。
ドイツではシュレーダー首相が自ら国民に信を問うとして解散を宣言したのですが、これが違憲か
否かでずっと揉めておりました。
これが今日合憲と判断され、めでたく(?!)総選挙を行うことが正式に決定、投票日は日本よりも
一週間遅く、9月18日に。
まあ、世間はそんな結果が出る以前からやる気満々で、あちこちでは世論調査の結果を掲載
しています。(ところでナニこのですます調?…『○旗』かよ…笑)
目下野党の調子がいいようで、日独ともに政権交代の可能性…っていうのも、もしかするとアリ?

さて本題。
BUNDESDANCE』(音声が出るので注意)では、ドイツの総選挙で戦う3人の党首を使って遊ぶ
ことが出来ます。
与党SPDの一員で首相でもあるシュレーダー氏に加え、与党CDUの代表で、初の女性首相への
期待も大きいメルケル氏、そしてそのパートナーであるCSUの党首、シュトイバー氏…この3人
の中から好きな人を舞台にあげて、踊らせようというもの。

踊らせるからには勿論音楽が必要で、好みの曲を選択できるのは当然のこと。
面白いのはそれぞれのキャラの上半身と下半身に、「ノリノリ度」を5段階で設定可能。
またバックダンサーには、先日「凱旋公演」を果たした"べネちゃん"こと教皇ベネディクト16世の
お姿や、(旧)東ドイツ人の皆様(この前シュトイバーにボロクソ言われた)など、ドイツとドイツの
政治状況に縁のある人々を配置したり、スポットライトを浴びせてみたり…という感じで遊べます。

惜しむらくは、一般的な社会生活を日本で送っている限り、ドイツの政治状況に詳しい人なんて
そうそういるモンではないので、楽しめる人の数がものすごく少ないこと(笑)…ま、暇つぶしに。
…個人的にはシュレーダー氏の踊りが好きかな(ちなみに以前の作品(2001年モノ)もこちらに。
バックダンサーの面子が微妙に違う所が時代を感じます)。

ところで現在苦戦を強いられているシュレーダー氏。
一説にはノーベル平和賞にノミネートされたとかされない(一昨日のSpiegel Onlineが報道 。
ノミネートが正式に発表されるのは10月中旬)とか言ってるし、バイエルン地方の水害もあるし、
もしかすると対処次第では巻き返しなるか…なんて思ってみたりもするけれど、そんなに甘くは
ないか(2002年の選挙では、エルベ川の水害のおかげ(?!)で辛勝したものだから、つい…ね)。

…でもさ、さすがに日本ではこんなものは作れないのかね。>BUNDESDANCE

投稿者 contra : 20:40 | コメント (2)

11.08.05

ハリー・ポッター in グァンタナモ[気になるモノゴト]

たまーに拾い読みする『Netzeitung』紙(日本語に訳すと『ネット新聞』…まんまや)に面白い
記事が載っていた。

ハリー・ポッター in グァンタナモ」と題したこの記事は、アメリカの『ワシントン・ポスト』紙が
伝えたもの(リンク先はドイツ語です、あしからず)。
それによると"グァンタナモ収容所でも『ハリー・ポッター』シリーズは人気"なのだとか。
面倒くさいので(←おい)全文を訳すつもりはないが、大体の内容はこんな感じ。

グァンタナモ収容所でのコーラン冒涜事件をめぐる一連の報道で、一時は危機に陥ったアメリカの
宣伝戦略。今では世界の大部分がそんな事件も忘れたかのようだが、そんな中、今度はアメリカの
メディアがグァンタナモからの"癒し系"の話題を伝えてきた。

単なる容疑のみで、司法による尋問や起訴を受けないまま、何年も収容されている『被収容者』
たち。彼らも『ハリー・ポッター』シリーズを読むのかどうか、『ワシントン・ポスト』紙がグァンタナモの
図書館司書に問い合わせたところ、どうやらこれが結構な人気で、中には映画版も見たいという者
もいるのだそうだ。
また、アル・カイダやタリバンの支持者とされている者たちの間では、アガサ・クリスティのミステリー
が評判らしい。

とはいえ被収容者達が図書館内で自由に本を物色できるわけではなく、実際は図書館員たちが
書籍を車に載せて、監房から監房へと運んでいるそうで、内容も「刺激を与え、暴動を引き起こす
ような」政治的な本は扱っていないとの事。

…確かに多少は微笑ましい感じがする。でも、グァンタナモをめぐっては何かと議論が絶えない事
ことだし、こんな毒にもクスリにもならないようなニュースを発信する暇があったら…(以下略)。
あらぬ疑いをかけられて、何年もグァンタナモで過ごさねばならぬ人々に、一日もはやく(お外で)
ハリー・ポッターを見せてあげたいものです。

ところで、現在アムネスティ・インターナショナルが中心になって、グァンタナモ・アクションという
キャンペーンが行われている。これはグァンタナモ基地(公式サイトはクソみたいなものだった
ので、刺激がたくさんのこちらをどうぞ…笑)の即時閉鎖を求めるメールをブッシュ大統領宛てに
送ろうというもの。
例文が用意されているので、英語が苦手な人も大丈夫。興味のある人は是非どうぞ。
ついでに書いておくと、公には「グァンタナモ湾米海軍基地」なのだが、先に紹介したドイツの記事
では「収容所」という言葉が使用されていたので、そのまま使用した次第。

…本当は昨日書こうと思っていたのですが、『ホワイトバンド』に遭遇したので今日になっちゃった。
最近のエントリを見ていると、やたら重いこと書いたり真面目な呼びかけしてみたり、なんだか自分
じゃないみたい…(笑)。

投稿者 contra : 22:40 | コメント (0)

10.08.05

世界的にほっとけないのだ[気になるモノゴト]

仕事の帰りに立ち寄った書店。
会計を済ませた後、レジ横に置いてあるワゴンに、白いリストバンドのようなものを発見した。

wb.jpg

その名も「ホワイトバンド」。シンプルなデザインで、雪の結晶のような模様が3つあしらわれているだけ
(これは後にアスタリスクだと知る)。
貧困撲滅のためのキャンペーンで、このホワイトバンド(一個300円也)を購入し、身に付けよう!
…というものらしい。

そういやどこかの新聞で読んで、「何か気になる」と思ったきりだった。
早速手にとってレジに向かおうとしたら、行列が出来ていて一瞬萎えるものの(空腹だった)、
頑張って再度並んで購入。

帰宅してとりあえず身に付けてみる。ちょっと女性の手首には大きすぎるなあ、というのが正直
な感想。今の季節なら足首につけてもいいかもしれないけど…(これは公式ブログにも書いて
あって、現在小さめサイズを検討中とのこと)。

…正式には『ほっとけない 世界の貧しさキャンペーン』。
世界のNGOが連携してのプロジェクトで、日本では今年の7月から始動したばかりなのだそうだ。
以下にこのキャンペーンの趣旨を(公式サイトより抜粋)。

いま世界では3秒にひとり、子どもが貧困から死んでいます。1日だと3万人。 1日1ドル以下の生活をしている人は12億人、きれいな水を飲めない人は10億人以上、 読み書きのできない大人は8億6000万人、これまでエイズで死んだ人は2000万人。


世界的な貧富の差が拡大しています。モノをつくっても公平に取り引きしてもらえなかったり、返済不可能なほどの借金を背負わされていたりすることで。

この貧困は人災です。克服することができます。
そのために必要なのは「貧困を世界の優先課題とすること」です。

20年前、アフリカ救済イベントで280億円の寄付を集め、
喜んだのもつかの間、それがアフリカでは先進国への債務返済に一週間で消える額でした。
寄付だけでは、貧困のスピードに追いつけないのです。
みんなの意向を集めて、政策を引き寄せなければ。

世界の貧困をなくすために、日本にできることは、
援助をふやす、援助をよくする、
最貧国の高すぎる返済金利を少なくする、
そして貿易をフェアにする、この4つです。
2005年はG8サミット、国連総会、WTOと大きな会議が3つもあります。
日本が世界にむけ「貧困の克服を日本の優先課題にする」とはっきり言うチャンスです。

今、世界が本気になって、構造を変えようとしています。
あなたも、ホワイトバンドを身につけてください。
貧困をなくすために、できることをしてください。

ほっとけない 世界のまずしさ。

街中での募金はなんだか信用できない(ついこの前も詐欺で摘発されているところがあった)し、
こういうのってなんだか偽善っぽい…そう思う人だっているだろう。勿論貧困に苦しむ国々だって
お金が集まる方が断然いいに決まってる。だが、集まったお金があっという間に借金返済で消えて
しまうという、焼け石に水のような状態が続いているのならば、世界全体でこの問題に取り組んで
いくしかないわけで、そうなると、やがては「自分も」その問題について考えることを求められていく
だろう。
自己満足でもなんでもいい、そういうことに関心を示すことって、悪いことじゃない。

お金を出して、ハイ終わり…の時代から、フツーの人も気軽に、でも一過性のものではない関わり
かたのできるキャンペーンへ。これからの展開が楽しみです。

ちなみにドイツ語版公式サイトはこちら。トップのGrönemeyer、やっぱりねって感じです。
ドイツ版のホワイトバンド…興味あるけどサイズが大きそうなので、やっぱやめとこ。

※1このホワイトバンド、購入しないといけないわけではなく、紐でも布でも白いものを腕に巻い
たりしてもOKらしい。大事なのは貧困問題に対して意識を持つということ、そしてそれを姿で示す
事なのだそうな。

※2ホワイトバンドは最近オークションなどでも高額で取引されているらしい。特に外国版の物は
レア度が高いのでわからないでもないが、あまりに高額だと、本来の目的から外れてしまうのでは
ないかと心配。…余計なお世話?

★追記(9月15日)
購入してからというも、シャワーを浴びる時も寝る時も身に付けているホワイトバンド。
そのホワイトバンド、最近は「詐欺か否か」で盛り上がっている。頂いたトラックバックにも、その
様な趣旨の記事があり、興味深く読ませていただいた。

雑誌「GQ」でも、ホワイトバンド一本の売り上げ(300円)に対するコストの内訳が紹介されていたが
実際にアフリカに寄付が行くのかと思えばさにあらず、殆どが流通費・宣伝費などに消えていき、
残りは参加しているNPOやNGOの活動費に消える…だからこれは募金や寄付ではなく詐欺だ!
と、大まかに言うとこういう事らしい。

という訳で、先日の記事で私が書いた「売り上げは貧困撲滅のために使われる」という表現はかなり
誤解を招く可能性があるので削除させていただきます。
※公式サイトのPDFには、当初「ホワイトバンドの売り上げの3割は、世界の貧困をなくすための
活動費に使われます」と紹介されており、それを記事を書く際の参考にしたのだが、後に「そして
そのような世論を構成する行動的な市民層を育てる地球市民教育や開発教育活動などを強化
するためにも、この部分は使われます」という一節が追加されたとのこと。

個人的にはこういった情報を聞いても、だまされたのとは違うんじゃないかと思っている。購入後に
公式サイトで内訳も確認したし、「GQ」でも見た。…そりゃお金掛かるだろうよ、とある程度納得
している。
Web一つとっても構築・維持するのは大変だろうし、広告をバンバン打って人の目に留まらなければ
そもそもせっかくの活動が無駄になる。ホワイトバンド自体だって、あんまり買い叩くようなことが
あれば「フェアトレード」ではなくなるだろうし、そもそもこの運動自体に尊さを求めて、ボランティアで
やれというのはこちらのわがままだし。
このプロジェクトがきっかけで、「貧困問題」について関心をもつ人が一人でも増えればそれは
すごいことだと思う。

…でも正直言って雑誌やテレビが「セレブも身に付けている!!」というような紹介の仕方には辟易。
こういう宣伝方法じゃないと多くの人には広まらないだろうけど、その分「ブームの終焉」に向けて
加速をつけているだけじゃないのかと心配する。"格好良く"やるのもいいけど、諸刃の剣みたい。
地味だとウケないし、マスコミや宣伝屋を味方につけるのもいいけれど、そのぶん「消費」される
スピードが早まるとすれば残念。

これまで中国で生産をしていたホワイトバンド(個人的にはそこが疑問だった。せっかくやるなら
アフリカでやれば?って)、やっとアフリカで生産する目処がついたと言うことだったのだが、こんな
状況じゃアフリカの工場が軌道に乗る前に「ブーム」は終わってしまうのじゃないだろうか。地元民
からすれば、せっかく仕事につけたのに、「ブームが終わったから」と首切られたらたまんない
…ナタデココの二の舞?

そしてもっと心配なのは、その「終焉」とともに、貧困問題に対する関心も薄れていってしまうこと。
私自身はブームが終わっても身につけるつもり。それは貧困問題だけじゃなくて、自分自身への
呼びかけだ。「関心を持ち続けよう、学び続けよう、自分で結論を導こう」と。


■参考までにどうぞ
・「さて次の企画は」-ほっとけない!ホワイトバンドで儲けるサニー・サイドアップメソッド
・「suneoHairWax::ein differenztheoretischer Ansatz」-ホワイトバンドへの嫌悪について
・「Where Angels Fear to Send Trackbacks」-ホワイトバンドを巡る議論についての覚え書き

投稿者 contra : 23:15 | コメント (2)

06.08.05

『ヒトラー~最後の12日間~』[鑑賞記録(映画、舞台、その他)]

untergang.jpg

現在公開中の映画『ヒトラー~最後の12日間~』。
実は劇場ではなく、ドイツ語版DVD※(しかもなぜか2枚組の方を買ってしまった)でしか
鑑賞していないのだが、日本版の公式サイトが盛り上がっているようなので、話題になっている
うちに感想を書き留めておく。

テーマは邦題の示すとおり、ナチス・ドイツを率いたヒトラーが自殺に至るまでの12日間の様子。
彼の秘書を務めた女性、トラウドル・ユンゲの回想録『私はヒトラーの秘書だった』と、ドイツの
歴史家ヨアヒム・フェストの『ヒトラー 最期の12日間』をもとに描かれていて、ヒトラーの姿や
愛人のエヴァ・ブラウン、ゲッベルスといった、彼を取り巻く人々は、とても"人間臭い"。

1945年4月、ソ連軍の勢力はベルリンまで達し、陥落はもはや時間の問題と思われていた。
ベルリン市内は戦場と化しており、300万人もの一般市民が、混乱の中を逃げまどっている。
帝国の官邸地下にある巨大な防空壕には、第三帝国の本部が設置され、ヒトラーをはじめとする
幹部達が集まっていた。
帝国のナンバー3であるヒムラーでさえも、ヒトラーに対してベルリンからの脱出を勧めるという
厳しい状況にも関わらず、ヒトラーはその言葉に耳を貸そうとはしない。
実現不可能な逆転のシナリオを描き、作戦会議で熱弁を振るおうとするが、幹部達の反応は鈍く、
時には困惑の表情すら浮かべる者もいる。
思い通りに動かない部隊に対する苛立ちを部下にぶつけるヒトラー。現状を省みず、犠牲になる
一般市民への同情や配慮すらもたない総統への戸惑いと畏れ。そしてナチスの最後を予感した
者たちが一人、また一人と去っていく。

次々と部下の裏切りにあい、怒りと孤独をますます強めるヒトラー。あと数キロでソ連軍が
防空壕にまで到達するという厳しい状況に、ヒトラーは自殺を決意。
愛人のエヴァ・ブラウンと簡素な結婚式をあげ、翌日ゲッベルス夫妻や秘書達に別れを告げ、
妻となったエヴァとともに自らの命を絶った。

…ストーリー自体は以上のように単純で、まるで再現ドキュメンタリーみたいな印象。
ヒトラーの姿や振る舞いにまつわる話や、彼の最後については多少なりとも知っている人が
多いだろうけど、機会があれば見て欲しいと思う。文字通りヒトラーの「人間」としての姿、それから
組織崩壊の物語が描かれていて結構面白く観た。2時間半はあっという間。

圧巻なのはやはりヒトラー役のガンツの演技&ゲッベルス夫人による我が子毒殺シーン。
とりわけマグダ・ゲッベルスを演じたCorinna Harfouchの演技は大層鬼気迫るもので、目が釘付け。
…であの相変わらずのクールな表情、結構好き(どうでもいいけど彼女、旧東ドイツの女優さんで
ドイツ統一直後は再び「無名」に近い存在になってしまったそうだが、数年後には再びトップクラス
の女優として復活。女オンナしてない、あの凛とした雰囲気が好きです)。

**********************************

しかしヒトラーを「人間」として描いた作品…これは本当にわかりやすい…が多少厄介だ。
後で述べることにも関連するが、結局この作品が大きな話題になったのは(公開劇場では連日
大入りらしい)、人間としてのヒトラーを映像化したこと、しかもそれをナチスそのものについて
語るという事自体「タブー」とされてきた(ことになっている)、ドイツ発のものだったと言うことに
尽きる。
公式サイトによれば、イスラエルでは批判めいた反応があったそうだが、それもうなずける話。
…そりゃそうだ。だってヒトラーは時折、とても優しいんだもん。

これまでだと、ヒトラーに対しては神経質で気性が激しく、冷血…狂気的な何かを発散する
ような存在というイメージがあった。しかし、秘書ユンゲの回想録にも描かれる姿を見ていると、
彼は普段、実に温厚で、気配りの行き届いたもてなしをする人だったようだ。
作品中にも出て来るが、初めての仕事で彼女がタイプミスを連発した時にも、ヒトラーは激昂
するどころか、彼女を辛抱強く励まして、勇気付けていた。
また、自殺の相談を(多少冗談めいてはいたが)皆でしている時に、ヒトラーは秘書連に毒薬
入りのカプセルを手渡すのだが、その際彼はユンゲに「こんなものしかプレゼント出来なくて
申し訳ない」…なんてことすら言っているのだ。
作戦会議で部下を前にして絶叫するヒトラー(こちらの方が大方のイメージに近いのではないか)
とは、かなりの隔たりがある。

ヒトラーが激しい感情をぶつけるのは、大抵が帝国のエリート幹部達だ。
士官学校を卒業した、まさに彼が育て上げたといっても過言ではない彼らは、ナチス・ドイツを
引っ張っていく重要な人間だ。

一人、また一人と自分の元を去っていく部下達は、ヒトラーにも多かれ少なかれある種の予感が
あったようだ。ある者にはいつもカネの噂が付いてまわったし、またある者は常にこそこそと動き
回っていようだし…。
しかし、ナンバー3であるヒムラーが自分を裏切り、勝手に連合国との交渉を画策していた事を
知った時、また帝国都市の理想を共有していたシュペーアも、別れの際、ヒトラーの命令を無視
した過去を告白したが、その時のヒトラーの衝撃と落胆は想像するに余りある。
誰もが帝国の完成を夢見、自分の下にやってきたはずなのに、皆、去ってしまう。
自分自身が誰よりも純粋に、ゆるぎない帝国建設の実現に向けて働き続けてきたにもかかわらず、
自分のすぐ傍にいて、ナチスの理想を最も良く知るはずの者達が去っていく。ある者は金に目が
くらみ、ある者は女に溺れ、ある者は栄誉を欲しがる。
「よりにもよって…!!」という絶叫が、それを口にしたものの孤独と絶望をよくあらわしている。

裏切るとまでは行かなくとも、ヒトラーに疑問を抱いた幹部達は、大抵ベルリンの一般市民の
事を案じていた。抵抗する術を持たず、ソ連軍に対する恐怖の中を逃げまどい、それでも
総統が最後には大逆転するのだと信じているドイツ国民達。

「残念だが同情はできん。民衆が自ら選んだ運命だ。そもそも我々が強制した訳でもないのだ!」
…皮肉なことに、ヒトラーに疑問を抱かず、まっすぐについてくるゲッベルスだけがこんなセリフを
吐ける。勿論ヒトラーも同じような言葉を口にする。「ここで滅んでしまうようならば、我が民族は
その程度のものだったということだ。そんな弱い民族は滅んでしまった方が良いではないか」と。
ヒトラーとゲッベルスはまさしく同一化していたのかもしれない。

なんと言えばよいのか分からないのだが、ヒトラーを基準にすれば、幹部達が欲にくらみ、自己
保身という裏切りに走った者は、結局自分を見捨てた。反対に忠誠を貫き通した者は民衆を見殺し
にする…。外から見れば、小さな「悪」をおかして、ヒトラーという「巨大な悪」から逃げた者と、忠誠心
という小さな「善」を貫いた者が、民衆を見殺しにするという残酷極まりない「悪」に手を貸すという
図がなんともやりきれない。善の中の悪、悪の中の善。

結局の所、民衆を見捨てた指導者は、最後に運命からも見捨てられてしまった訳だが、あんな
裏切り方をされていくヒトラーには少し同情すらしてしまう。
…それにしてもヒトラーに同情を起こさせるような描写というのは、これまで「ヒトラー=ナチス=
絶対悪」、「何が何でも悪」と信じ込んできた人々には都合の悪い話だ。

…こう書くと、すぐに噛み付いてくる人がいる。「お前はヒトラーが悪人じゃないとでも言うのか?」
そうじゃない。今更ヒトラーに好々爺的印象を持ったところで、彼の行いやそれに対する歴史的な
評価は代わらないし、作品内でも度々出てきていたように、一般市民が爆撃の中逃げ惑う姿は
胸が締め付けられる。
そもそも「私」がこんな思いをしなくてはいけないような戦争なんて真っ平だ。
…そうじゃないのだ。ある行動やその結果について、私達が善悪を判断するのはたやすい。しかし
人間についてはそう簡単にはいかない。Aさんの中のここからここまでは「善」で、ここからは「悪」
なんて線引き、できるわけが無い。自分の中の混沌とした善と悪。
問題なのは自分と「悪」を切り離して考えることが平気で出来てしまう人間、自分だけはそのように
なることはないと信じている人間がどれほどいるかということ。
そして、それが一番危険なのではないかということだ。

アウシュビッツでユダヤ人を「処分」した後、我が家に戻った高官がモーツァルトを好んで聞き、
子供にはこの上なく優しい父親として過ごしていた…私達はよく、"ナチスの恐ろしさ"として
こんな話を聞かなかったか。しかし、これはナチスではなく人間=私達(あえて言うなら「私」)の
恐ろしさとして聞くべきだったのかもしれない。ある一定の「異常な」状況下では、私もやすやすと
そんな人間になってしまうのではないか…そんなことを考えて恐ろしくなる(これについては姜尚中
と森達也による対談集『戦争の世紀を超えて―その場所で語られるべき戦争の記憶がある』を
お読み頂けるとわかるのではないか。敵を「人間」ではなく「害虫」という認識で捉えてしまうと、
たやすく相手を殺せてしまう。「害虫駆除」という感覚に、人間はいとも簡単に慣れてしまう)。

悪に「悪」というレッテルをはるのはたやすいが、悪を「悪」と決め付けて、わが身を省みない
「正義」は実にお手軽だ。

そういえばこの作品の監督は以前に「es」という作品も作っているが、これも衝撃的だった。
詳細はどこかで見ていただくとして、この時も、普通の市民が「囚人」と「看守」のロールプレイング
を行った時に、看守役の行動が加速度的にエスカレートしていく様を描いた、なんつーか、陰惨な
映画だった。見た直後は、人間不信というか、自分不信に陥りかけた。

…しかしわからないのは人間だ。この混沌とした存在、ヒトラーを通してそう感じる。
人間の中に内在する、悪の可能性。自分も然り。

・最後までお読みくださった方、お疲れ様でした。
何だか初めに書こうとしていた事からずいぶん離れてしまった気が…(汗)丁度あささんという方の
逃避日記』というブログに言いたかったことに近い記事がありましたので
ご紹介させていただきます。

※ちなみにドイツ語版のDVDには、英語字幕とドイツ語字幕、さらに視覚障害者のための音声案内
(情景とかの説明)まで付いてます。。…ドイツ語学習にも役に立つのではないかしら。
また2枚組版の特典ディスクには、約一時間に及ぶメイキング、主要登場人物のインタビュー等、
約3時間の映像が収録されています。日本語版はさすがにここまで出来ないかな…?

※なお、冒頭の写真はドイツの映画情報サイト『film.de』よりお借りしました。はーっ、長ぇ。

投稿者 contra : 20:15 | コメント (0)

03.08.05

一冊丸ごとドイツ特集[お買い物,ドイツ語・ドイツ関連書籍]

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『芸術新潮』の8月号は、一冊丸ごとドイツ特集!!
即買いでした。

公式サイトでは立ち読みコーナーもあるので、覗いてみては?

投稿者 contra : 23:59 | コメント (2)
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