tabula rasa

いわば、スクラップブック兼メモのようなもの。
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07.06.05

『アグネスと彼の兄弟』[鑑賞記録(映画、舞台、その他)]

ドイツ映画祭2005』の4作品目は『アグネスと彼の兄弟』(リンク先はドイツ語です
…あしからず)。

agns.jpg

アグネスと彼の兄弟…"彼の"というのはアグネスが元は男性だったから。母親の記憶が無く
エキセントリックな父親との思い出をまだらに共有する三人(それは一致したことがない)。

長男ヴェルナーは「緑の党」に属するやり手の政治家で、時期環境大臣と目されている。
目下の所リサイクル法を成立させることに心血を注いでいるが、多忙さのゆえか、家庭は
崩壊寸前。
家庭を省みない夫に対して、冷たい妻と息子。二人はべったりで、文字通り共依存。
…彼はそんな家族が面白くない。

次男のハンス=イェルクは一見まじめな図書館員だが、実は過剰な性欲に悩んでいる。
上司に資料作りを頼まれているのに全くはかどらない。露出の多いおねーちゃん達が
視界に入ってきて、それどころじゃないのだ。本棚の隙間から、階段の下から、果ては
トイレで覗きを繰り返す。セックス依存症のテラピーをもう何年も受けているが、一向に
良くならない。彼は自分の病気の原因は、父にあると思っている。父が幼いアグネスに
性的に虐待しているところを目撃した、そのトラウマだというのだ。

末っ子のアグネスは、夜な夜な出歩くことに腹を立てた同居人に追い出され、路頭に
迷っているところを拾われて、今はクラブでダンス・クイーンとして働いている。
ある日彼女は病院の検査で引っかかってしまう。彼女は不治の病に冒されていたのだ。
…そんな時アグネスは、自分の住むケルンの街にある人がやってくることを知る。
それは、「マルティン」だった彼を「アグネス」へ変えるきっかけとなったひとだった。

家を出て行くという妻に、泣き喚くヴェルナーは駄々っ子そのもの。そこには政治家としての
自信は微塵もない。強烈な甘ったれ。
覗き行為が見つかり、精神の限界に達したハンス=イェルク。病の根本原因を"取り除き"、
ポルノ男優へと転身を図る。そこで出会った運命の女性。
成功した昔の男に対しても、アグネスは抑制的だ。それは病の故なのか、それとも彼女の
生来の性質なのか。

この作品では、性転換した人物を「当たり前の存在」として描くという意図があったと聞くし、
知人にもそういう人はいる。アグネスにも違和感はあまりないのだけれど、それでも生まれ
ながらにして「女」の肉体をもっている人間とは違う。特に冒頭、モノクロの画面で、カメラに
向かって母親のことを語りかける人物は、まだどちらかと言うと「彼」だ。
しかし物語が進むにつれて、「彼」はやがて誰よりも美しい「彼女」に見えてくる。それどころか
一癖もふた癖もあるような男と女ばかりが出てくる画面の中で、彼女が一番まともで一番
「純粋な姿と魂」をもっている事に気づく。

上映前に挨拶があった。アグネスを演じたマルティン・ヴァイス氏が舞台にあがって、
この作品はどのカテゴリーにも属さない映画で、登場人物たちの感情を感じ取ることに
心を使って欲しいといっていたけれど、確かに混沌とした映画だ。
みんな強烈で、真っ当人は殆ど出てこない。時々暴発する感情と露悪的な描写の渦の中で、
揺らぐことなく立ち続けているのは、アグネスだけだ。
私にはあっていたようで、この作品はこれまで映画祭で鑑賞した4作品中で一番印象に
残った。上映後には彼は出てこないと言うことだったので、残念な気分。
一回目にこの作品が上映された日曜日は、サイン会と質疑応答が行われたと聞いていた
ので、なおさらもったいないことをした気持ちになっていた…のだが。

…しかし「偶然」ってすごいわ。
上映後、有楽町阪急で『かまわぬ』の手ぬぐいが販売されていたので、プレゼント用に幾つか
見繕った後、先月銀座に初進出なった『エコール・クリオロ』の"ジュレ・ウィルキンソン"
(ジンジャーエールを使ったゼリー♪)を求めて銀座は松○屋へと足を進めていると、丁度
シ○ィバンクのある交差点で信号に引っかかった。もう一方が青だったので渡ろうとした時、
シテ○バンクの前で、観光客らしき外国人が2人立っていた。
あれ、あれあれ~?…やっぱりそうだ!アグネス(ことマルティン・ヴァイス)だ!!

そのうち信号が変わって、アグネス(←ヲイ)が一人でこっちに向かってきたので、
私は思わず近づいて、「あのっ、すいません、ヴァイスさんですよね?!」と声をかけてしまった。
彼は一瞬はっとして、次の瞬間には首を左に傾げながら(…それは話をよく聞こうと耳を貸す
仕草のようだ)、「そうですよ」と、優しい目をして握手をしてくれた。
実はまさに先刻、貴方の映画を観てきたのだというと驚いた様な顔をして、それから
はにかんだような笑顔になった。
上映後の挨拶がないと聞いて残念に思っていたのだけれど、とサインをお願いすると
快く応じてくれた。「それで作品は気に入ってくれましたか?」なんて言いながら…。

彼の足元には紙袋が二つ置いてあったので、「お買い物なさったんですね」なんて聞いてみると、
「ドイツにはMUJIがないでしょう?だから思わずいろいろ買ってしまって…」と、ちょっと
照れくさそうに話してくれた。彼もヨーロッパの若者らしく(?!)無印良品に興味があるのね。
アグネスとのギャップを殆ど感じない、柔らかな物腰と落ち着いた話し方で、静けさをたたえた
ような人だった。

話したいことはたくさんあれど、なんせ頭の回転に久々のドイツ語(話す方)がなかなか
ついてこれない。上手くいえないもどかしさも残しつつ、あまり拘束するのも何なので
丁度手元にあった手ぬぐいをプレゼントした。「え、これホントに僕にくれるの?」と、驚いて
いたが、日本の伝統的なタオルで、早く乾くしいろいろ使えますよ~…なんつって渡したら
喜んでもらってくれた。

chef.JPG

『かまわぬ』の中でもちょっと面白い、故ナンシー関さんの「おじぎ部長」という絵柄(笑)。
かつての「じゃぱにーず・びじねすまん」の典型的なイメージだな。はっきり見たい人は
ナンシー関著『耳部長』の表紙をご参考に(この絵がずらり、なのだ)。
…部長、ドイツに出張だよ。

可愛いたぬきの絵柄もあって、本当はそっちをあげたかったたのだけど(「たぬき」=
「他抜き」、つまり他より抜きん出るという意味があるらしく、まさに俳優業には相応しい?)、
「たぬき」という単語が浮かばなかったのはなんとも情けない限り…トホホ。
おまけにドイツの洗濯機って基本的に高温で洗うから、手ぬぐいなんて一発で縮みそう。
…大丈夫かしら。なんか不安になってきた。使ってくれるといいんですが。

『アグネスと彼の兄弟』は、今年のドイツ映画賞にノミネートされた様子。強敵が多いので
(『ゾフィー・ショル』や『9日目』、『ベルリン・僕らの革命』など)どうなることやら。
残念ながら日本での公開は未定。好きになる人はいると思うんだけどね…。作品についての
監督のインタビュー(日本語)もどうぞ。
それから『かまわぬ』と『エコール・クリオロ』についてはそれぞれまた後日にゆっくりと。

※文中の写真はドイツの映画情報サイトよりお借りしました。

投稿者 contra : 07.06.05 23:14
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